7つの質問
冨樫孝男さんに聞いた7つの質問
冨樫孝男さんに聞いた7つの質問
Q1. 漆を扱うお仕事でいらっしゃいますが、手などがかぶれたご経験はありますか?A. 漆はカブレるので、なかなか実際の作業現場を見せているところも少ないですし、ワークショップや教室等も、焼き物と比べると圧倒的に少ないです。
私の家は、代々漆器職人をしております。
子供の頃から仕事場が遊び場でした。
手を漆桶に突っ込んだ事もあります、、、、
でも、全く何ともありません。
父や祖父はカブレます。代々の免疫なのか私だけカブレないんです。
全国の漆産地には漆の専門学校が必ずあります。
そこに入学してくる生徒達はまず酷くカブレて、「洗練」を受けます。
一度酷くカブレると、次からはカブレはしますが、軽くなるんです。
やはり体に何か免疫がつくのかと思います。
∴冨樫さんのお話はいつも興味深くて聞き込んでしまいます。
なんと!お父様と祖父様はカブレる人だったのに冨樫さんご自身はカブレたご経験がないなんて驚愕でした。
小さい頃から仕事場が遊び場でした。いつもお父様の背中を見ながら過ごされたのが分りますね。
Q2. 漆器作りで自分にとって一番困難に感じる所はどの工程でしょうか?
A. 漆は、洗濯物とは逆で、高温多湿の状態が1番乾きます。
正確には、「乾く」というより「硬化する」という表現かと思います。
高温多湿であるほど、速く乾き、低温で乾燥してるほど、乾きが遅いです。
ただ、速ければいいというものでもありません。
速すぎると漆の塗装面に「ヨレ」が生じます。
我々塗師は「漆が縮む」と言います。
逆に遅いと、一向に漆が硬化せず、例え乾いたとしても何となく塗装面がブヨブヨしていたりします。
これは会津の塗師は「漆がスネる」といいます。
その季節の温度湿度を考え、漆をその都度調合しながら、適した乾き時間で硬化するように調整してます。
でも、やはり梅雨時と真冬は失敗する可能性は高いです。
春や秋はほとんど何の問題もなく漆が無理なく乾きます。
人間が過ごしやすい気候の時は、漆にとっても、いい季節なんです。
∴なるほど!
漆は湿気が多い場所で乾かすと言うことは以前から聞いておりましたが、何度聞いてもこの理解が難しくて...笑
だって大気の働きと逆なんですもの!
それに漆って面白すぎますね、だってスネたりもするみたいだし...^^
塗る作業は1回塗布した後に乾かし 乾いたらまた塗る
これを何回も何回も繰り返すのですから、本当に辛抱強さが問われる作業です。
ある意味自分との闘い的な感じがありますよね。
自然を相手にしているのですから。
いつも思うのでうすが、冨樫さんが漆のお話をされるとき、漆への愛情も伝わってきてほっこりします。
Q3. もし漆芸家になっていなかったら今頃何になっていたでしょうか?
A. 子供の頃、親に、地球儀と世界の図鑑と世界のパズルをもらいました。
毎日毎日、これをいじってました。
図鑑とパズルはボロボロになるまで何度何度も見たりやったりしてました。
この場所はどんなところなんだろう?とか、ネットも無い時代ですから、想像で世界を旅してる気分でした。
高校生になると旅行記に興味が出て、子供の頃に覚えた都市を旅してる旅人の旅行記を読むのに夢中になりました。
海外はどんなところなんだろう!と夢は広がっていたのを覚えてます。
自分の今創っているものも、その時の「あこがれ」からきてるものが多いです。
おそらく、漆をやってなければ、海外に関係する仕事をしていたかもしれません。」
∴冨樫さんのコメントは毎回感慨深さがありますね。
小さな頃から視野が広くて好奇心旺盛だったのですね!
その頃からハートは世界に向いてたなんて!
そういえば漆は世界中の方々からjapanと呼ばれている物、つまりはテーブルウェアの代表格なんですよね!
とっても誇らしいことですよね~
それに、ボロボロになるまで見ていた図鑑やパズルが今の作風に影響を及してるなんて!
やっぱり、スティーブジョブズの名言は本当だって感動しました。
Q4. この仕事に就いてから一番印象に残った出来事はどんな事ですか?
A. ある方から「G7伊勢志摩サミットの首脳の晩餐会で使う酒器を冨樫君に作って欲しいんだ」というお話を頂いた事。
漆は分業で、ボディーをつくる木地師、漆を塗る塗師、絵を描く蒔絵師とで制作されます。
ここが、焼き物やガラスと違うところで、1人で全てをやる、、、というのは難しく、作り手の輪が必要になります。
この伊勢志摩サミットは納期がタイトで、まず作るものの見本を外務省と当時の安倍昭恵夫人に提案しなければいけませんでした。
もちろん分業制の漆業は、外務省に見本出さなきゃいけないから、今すぐ作って、、、などというわがままはまず木地師さんには通用しません、、、
指定された期日まではもちろん見本など出来るはずもなく、
弟子の工房いちかの菊地に、設計図を見せて、これを立体にし、彩色して外務省に送るから書いてくれ、と。
元々、蒔絵をやっており絵画は得意だった工房いちかの菊地は、細密画で私の平面の設計図を立体に起こし、指示通りに彩色して期限通りに外務省に送る事が出来ました。
漆をはじめ、焼き物やガラスなど様々な工芸が今回の選定のライバルでした。
私のは、見本ではなく完成イメージ図、、、でしたが、最終選考の2品まで残り、最後に納品日をお聞きして、それなら完成できます!とお答えしました。
それならこれで進めましょう!と。
木地師さんにある程度アウトラインだけを作ってもらい、
そこから自身で手彫りで面取カットしていく酒器でした。
納品ギリギリだけど、これなら出来る!、、、、と思っていた矢先、いきなりの1週間納期短縮!笑
ここで、納期までに完成は無理だと悟りました、、、
制作は短縮によって時間的に不可能なので、結局最終選定2品残っていた別な方に決まってしまいました。
笑い話のような出来事ですが、漆はその制作の特性上、木地師、塗師、蒔絵師など沢山の人の手が入ります。
なかなかすぐに思ったものを自由自在に作るというのが難しい工芸です。
今回の一緒に展示してる工房いちかの菊地(遥香)とのバタバタしたけど、とても印象に残る連携プレーでした。
∴このお話は工房にお邪魔した際に聞いておりました。
その時も今回も何回聞いても自分のことのように悔しくて悔しくて、涙が出そうになります。
同時に分業であるが故、完成まで一人で回せないもどかしさと、連携プレーで進める漆業の厳しさを感じました。
あぁ 木地師さんがもし納期に対応できていたら・・・
あぁ 外務省側が納期を急に変更しなかったら・・・
様々な想いが交差したことと思います。
一晩で頭を切り替えることができない程の悔しいエピソードに、感銘を受けました。
でもきっと、もっと凄いことが未来に待っているような気がします。
だって漆業界にイノベーションを起こした作家さんですから!
世界が放っておく訳がないです。
って何の根拠もない無責任発言をお許しくださいませ~
悔しいけれど、なかなか経験できない印象的なエピソードでしたね。
お話下さって有り難うございました!
Q5. これまでに制作したことが無いもので今後作ってみたいものはありますか?
A. 漆、色々は素材に『擬態』できるという面白さがあります。
陶器のように、ガラスのように、金属のように、鋳物のように。 持ってみないと、触らないと本当に分からない場合があります。
これは『変わり塗り』という技法で、江戸時代より騙し塗りとして遊び心で行われてきました。
100種類の騙し塗りを記述した文献もあるくらいです。
赤黒金銀という漆のイメージですが、まだまだテクスチャーなど試してみたい事が沢山あります。
天然木を使い、自然の漆を使い、先人の残してくれた工法をつかえば、自分のイメージしてる創りたい物が叶えられる気がします。
まだまだ使ってない技法は沢山あります。
具体的にこれ!というのはありせんが、自分のイメージしてる品を皆さんが驚く技法で制作したいなと思っております。」
∴この回答を聞いて冨樫さん、漆マジシャンだって思いました笑
栗やチョコレートのようにミニチュアの作品もそうですが
いつもビックリするような作品を作られているんですもの!
まだ使っていない技法があるとのことですから
サプライズは無限大ですね!
今後のどんなモノで私達を驚かせてくださるのか凄く楽しみですね^^
Q6. お休みの日の過ごし方、または趣味は何でしょうか?
A. ロードバイクです。 正確には、自転車の両サイドに荷物をつけて自転車旅行やキャンプなどの装備で走るランドナーという自転車で、競技用ではありません。
会津は内陸の盆地ですので山々に囲まれてます。
春はもっぱら、自転車で山々を走り山菜採りをして、自転車に積んでツーリングがてら走っております。
蕗の薹、ワラビ、ウド、フキなど、自転車のスピードだから見つけやすいです。
競技車ではないので、のんびり山々を走り、綺麗な木々や川の景色を楽しんでおります。
ただ、会津地方の山々には熊やマムシが沢山出るので(今年は熊三頭目撃しました) それの点は怖いですが、、、、
∴自転車はママチャリしか乗ったことがないので(笑)
ランドナーというものがどんな感じなのか想像の範囲でなのですが
きっと山道とかもスイスイ走れるタイプの自転車なのかな~と。
流石冨樫さん!有意義な趣味をお待ちですね。
自然と触れあいながら息抜きもできるでしょうし、
何かクリエイティブなインスピレーションも降りてくる事もあると思います。
ただ、熊とマムシはノーサンキューです(^_^;
ツーリング中はくれぐれもお気を付けくださいね!
Q7. 福島会津の魅力について教えてください
A. 会津は、横に長い福島県の中で、日本海側の気候風土になります。
福島県でも、会津以外は太平洋側関東のような気候です。
日本海側の気候で新潟に隣接しておりますので、豪雪地帯です。
会津藩の時代から城下町で栄えておりましたので、漆器、蝋燭、日本酒、などなど沢山の地場産業があります。 特にお米、日本酒、お蕎麦などは美味しく、会津独特の郷土料理も沢山あります。
郷土料理「こづゆ」には、それ専用の漆器「手塩皿」というのに盛り付けるのが決まりになってます。
新撰組や白虎隊、千円札の野口英世などでも有名です。
会
津には「会津の三泣き」という言葉があります。
会津に来た人が、会津人のぶっきら棒な態度で1度泣き、 知れば知るほど人情が厚い事に感激して2度目泣き、 最後に会津を離れる時に離れ難くて3度目泣く、、、
初めはとっつきにくいかもしれませんが、東北特有の素朴な温かさがあるところで、とても郷土愛が強い土地柄です。
∴楽しいお話をシェアしてくださって、ありがとうございました。
「会津三度泣き」のくだりは面白いですねー!
私から見た会津の方々は...全然ぶっきらぼうな感じではなかったです。
どこに行っても親切な方ばかりでした。
皆さんちょっとだけシャイな印象があったかもしれません